
Column
「噛めよ 噛めよ よく噛めよ 噛めば体が強くなる」
Impotance of chewing well
この言葉は、私が幼い頃、祖母が教えてくれたことばです。当時、私はこのことばを「本当かな?」と半信半疑で聞いていたことを思い出します。数十年も経った今では、祖母の思い出とともに、とても懐かしいことばとなりました。
このことばは祖母がつくったものではなく、当時、どこの家庭でも、ゆっくり食事をするための戒めとしてよく使われていたような気がします。そればかりか、日本人の長い食の歴史のなかで、かなり古くから代々伝えられてきたようにもおもいます。現在と違い、昔の食べ物は、硬いものが多かったので、よく噛まなければならなかったのも事実ですが、それだけではなくよく噛んで食べることは健康にいいことが経験的に知られていたのではないでしょうか。
最近、私の講演会で約二百人の聴衆に「このことばを聞いたことのある人はいませんか?」と訊ねてみると、たった一人ですが手を挙げた人がいました。このことは、このことばは確かに存在したことを意味します。それにしても知っている人があまりにも少ないようです。今、このコラムを読んでいる人で、このことばを聞いたことのある人、またこのことばの由来を知っている人がおられたら、メイルでご一報ください。
私は長年にわたって唾液の研究をしてきましたが、唾液が強力な活性酸素消去パワーをもっていることを、実験的に証明したのです。活性酸素とは、ある種の化学物質などが体内や細胞内で発生させ、糖尿病、心臓病、動脈硬化、白内障、老化などの原因となることがわかっていいます。現代の食品には、食品添加物、残留農薬、環境汚染物質などで汚染されていて、私たちの体に活性酸素が発生しやすくなっていると思われます。
だから食べ物をよく噛んで、唾液のパワーを活用し、有害物質などから発生する活性酸素を消去して健康を保持できるのです。よく噛んで食べることは、先祖代々から経験的に推奨されてきたことですが、今、この根拠を科学的に証明できたのです。
よく噛むことによって唾液の分泌が活発になることは、経験上、誰もが知ることです。この唾液の分泌が、実は私たちの健康と深いつながりがあることがわかり、よく噛むことが、いかに大切かを私自身思い知らされたのです。
二十世紀の中ごろまでの、長い食の歴史の中で人は常によく噛んで食べてきました。私の子供のころ、昼食は別としても、朝食と夕食は家族全員が一緒に食べたものでした。祖父母、両親そして子供たちが揃ったところで、全員が手を合わせて「いただきます」といってから箸をとったものです。食べ物は尊いものとされ、もったいない食べ方をしてはいけない、ご飯は一粒も残してはいけない、と厳しく躾けられました。
そして祖父母や両親が子供たちに、よく注意したのが「よく噛んで食べなさい」でした。これは何も私の家だけではなく、多くの家庭でそうであったとおもいます。考えてみると、よく噛んで食べることは、太古の昔から各時代を超えて、ほんの半世紀前までは、ごく当たり前のことだったのです。
この長い歴史を保ってきた噛む習慣が今、失われています。失われたのは、ほんのここ四、五十年です。どうして急に失われたのでしょう。それにはいろいろなわけがありますが、もっとも大きな原因は食生活の変化です。私たちの食生活は、ここ数十年ですっかり変わってしまいました。食べ物の変化とともに食べ方も変わったのです。軟らかい食べ物が好まれる軟食時代が訪れ、多くの人が噛まなくなってしまったのです。いや噛めなくなってしまったといってもよいでしょう。人間の長い食の歴史の中で突然の変化です。
このことによる健康への悪影響は、あなたが想像しているよりはるかに大きいのです。噛まなくなったために、私たちの体にはいろいろな変化がおきています。健康維持のために、歯ごたえのあるものを選んで、よく噛んで食べるように心がけましょう。
「健康クッキングオイル」の安全性に疑問
−何と特定保健用食品が発がんプロモータとは―
Impotance of cancer promotion of food additives
健康クッキングオイルの安全性
肥満や生活習慣病と密接に関係するのが体脂肪、中性脂肪、コレステロール。だから、これらの原因となる脂肪分の摂りすぎは好ましくないことがわかっています。でも、ドレッシング、マヨネーズ、ラーメン、スナック菓子など、私たちの食生活では食用油はついて回るのも事実。
そこで登場したのが、体脂肪などがつきにくい健康クッキングオイルといわれるものです。テレビのCMでも、その健康効果が盛んに宣伝され、スーパーの棚にはずらりと並んで、売れ筋となっています。もし、このタイプの食用油にこのような健康効果があれば、私たちにとってはありがたいことに違いありません。
では、この食用油はどうして体脂肪などがつきにくいのでしょう?
研究の結果、脂肪をつきにくくするのはジアシルグリセロール(DAG)という物質が働くからであることが判りました。このため、1998年には、この物質が特定保健用食品(トクホと呼ばれることがある)として厚生労働省で承認され、食品会社大手の花王(株)をはじめとして、各社がこの物質を添加して、脂肪のつきにくい健康クッキングオイルとして販売し始めました。
現在、既に多くの家庭のキッチンの棚には、DAGが添加されたクッキングオイルが並び、健康に良いと信じて使用されていることでしょう。でもDAGは合成化学物質であり、これが80パーセント以上も添加されているのです。
そして何と、このDAGという物質は、発がんプロモータ(発がんを促進する物質)である可能性が知られていました。事実、2003年6月の厚生労働省の審議会では、このことが議論されているのです。ところが同年9月30日、内閣府の食品安全委員会は「安全性には問題はない」として花王(株)の申請を許可し、現在、DAG添加のクッキングオイルが出回り、健康に良いと信じて、誰もが食べているのです。
2004年3月、厚生労働科学特別研究事業として、国立がんセンターで行われた「ジアシルグリセロールの発がんプロモーション作用に関する研究」の総括研究報告書(主任研究者 飯郷正明)では、この物質がラットの舌の扁平上皮がんのプロモーション作用を示すことを報告しています。なんと発がんプロモータが、特定保健用食品として指定されていたのです。発がんプロモータであることが証明されたからには、直ちに使用を禁止すべきです。
「特定保健用食品」と「発がんプロモータ」
20数年以上も前からアメリカで、サプリメントブームが始まりました。いわゆる健康補助食品です。当初、私たちは、正しい食生活さえしていれば、健康補助食品なんて不必要だと、このブームを批判的に見ていました。しかし加工食品の大量生産、大量流通がますます進み、コンビニやファストフードなどは誰にも身近な存在となり、正しい食生活はかなり難しいことになっています。
また、活性酸素による健康障害やこれを防ぐ抗酸化作用、それに体脂肪の燃焼などのメカニズムが明らかとなり、サプリメントは健康維持やダイエットに有効と考えられるようになりました。そして日本でもこれらが特定保健用食品として認知されたのです。これらは原則的には植物エキスなど天然由来のものが普通ですが、前出のDAGは例外的に化学合成物質です。
がんは多段階で進行しますが、その重要な過程は、イニシエーションとプロモーションです。イニシエーションとは「きっかけ」ともいえるもので、細胞の遺伝子DNAが発がん物質で損傷することです。この損傷は多くの場合、修復されますが、修復されずに残った場合、これに促進因子が数年から十数年にわたって作用し続けると、がん細胞の集団が形成されて発がんします。この促進因子がプロモータです。従来は「きっかけ」の発がん物質だけが注目されてきましたが、ようやく発がんプロモータの重要性が認識されてきたのです。
特定保健用食品は、普通、長期にわたって食べ続けることになるので、いかに、肥満などを防ぐ効果が期待されるとしても、発がんプロモータであることが証明された物質が採用されるべきではありません。つまり健康クッキングオイルを食べ続けると、そのために発がんする可能性が高まることになるのです。多少減量できたからといっても、がんになっては元も子もありません。またこれらのクッキングオイルには、合成化学物質のDAGが使用されているにもかわらず、大豆と菜種からできていると表示されているのも問題です。
活性酸素がさまざまな健康障害を起こすことがわかっていますが、活性酸素は、発がん物質でもあり、同時に発がんプロモータでもあります。これらの詳細については、最近の私の著書、「活性酸素に負けない本」(講談社)と「噛めば体が強くなる」(草思社)を参考にしてください。
いずれにしても、発がんプロモータである合成化学物質を大量に添加されたものを特定保健用食品として認可することは、私には理解できません。